ゴー宣DOJO

BLOGブログ
泉美木蘭
2025.12.10 17:36

「トランプ氏、NVIDIAのAIチップを中国へ輸出承認」について

トランプ大統領が、米国の半導体開発企業「NVIDIA(エヌビディア)」社の
AI用半導体チップ「H200」の中国への輸出を許可するとのことで、
話題になっているようだ。

軍事技術には、高性能なAI用半導体チップが欠かせない時代になっているが、
その半導体製造のためにもっとも重要な装置を作れるのは、
現在、世界でオランダのメーカーだけ。
そして、そのメーカーが作る装置には、アメリカ企業の技術が組み込まれている。
アメリカは長らくオランダに対して、
「俺たちNATO仲間だよな? その装置、絶対に中国に売るなよ!」
と圧力をかけて、中国を半導体チップ競争からハブるという国家戦略をとってきた。

だが、最近のトランプと習近平は、仲良くやりたい様子。
トランプが関税をかければ、習近平がレアアースの輸出を制限し、
米国内の工場を操業停止に追い込むなどバチバチするばかり。
お互いにうまい具合に手を打つために、ニコニコしながら腹の中を
探りあいたいんだろう。

今回トランプが輸出を許可するのは「H200」というチップで、
これはすでに「型落ち」のものらしい。
アメリカ国内では、すでに最先端のチップが十分に準備できており、
型落ち製品を中国に売ったところで、アメリカの軍事的な優位性は
変わらないということだ。

トランプは、中国に売ってよいが、そのかわりNVIDIA社からは、
利益の25%を徴収し、
「アメリカの雇用を支え、製造業を強化し、納税者に利益をもたらす」
と支持者向けにアピールしている。

NVIDIA社としては、中国に販売できるなら、その利益をもって、
さらなる最先端技術に当てることができる。

それに、中国も自国内でAIチップが製造できるよう技術開発を続けており、
いずれ「中国製最強軍事AI半導体チップ」が完成するかもしれない。

ここで「米国のAIチップ漬け」にしてしまえば、開発を遅らせることが
できるという思惑もあるようだ。

・・・と、ここまでがアメリカ目線の記事から読めたこと。

現実には、中国が「H200、それはありがてえ!」と大量買いするのか

かなりあやしい。
日本だったら素直に「在庫一掃セール」に協力するかもしれないが、
中国はそうはならない。
もちろん、現在の中国の技術からランクアップできる製品なのだが、
型落ちの上に「米国のAIチップ漬け」にされては困る。

中国は、安易に米国のIT技術を使わせないよう国内に規制をかけ、
自国民の行動データを公然と吸い取って、ひたすら自国内での開発に専念、

AI企業が開発した「TikTok」で世界中を承認欲求中毒にすることに成功、
巨額の「投げ銭」を吸い取ってきた国だ。

ロボットだって進んできたし、ドローンでは先行している。

実際、トランプが対中輸出許可の宣言をする直前に、
中国政府が、自国企業に対して「H200」チップ へのアクセスを制限する
方針という報道が出ている。(ロイター)(フィナンシャルタイムズ

企業トップに対して、国内産のAIチップを使うのか、米国産に頼るのか、
政府がアンケートをとるという報道もあった。
中国共産党から、
「お前、アメリカから買うわけ? どうするの? なあ、買うわけ?
と顔面2センチぐらいの極圧距離で問われるのだ。

来年には、米中首脳がお互いの国を訪問するイベントがある。
トランプとしては、「AIチップの件で譲歩したよね?」という交渉材料の
1つにするつもりかもしれない。
中国は、自国のAIチップ開発を遅らせるほどの量は買いたくないが、
台湾の件については改めて確認をとりたいはずだ。
軍事技術・安全保障にかかわる件が大国どうしの交渉に使われている、
その現実についてよく考えたほうがいいと思う。

***

ちなみに、NVIDIA社は、米国内ではAIチップをほぼ製造していない。
一手に引き受けているのは、台湾の「TSMC(台湾積体電路製造)」社だ。
TSMC社は、「設計図をくれたら、それを製品として実現してみせる」
という会社で、「世界の半導体製造工場」に特化している。
現在のところ、軍事AI向けのAIチップ、さらにその先の最先端チップは、
技術的に台湾でしか製造できないらしい。
そういう意味でも、中国から見れば台湾は本当に魅力的だろう。

TSMCと言えば、1年前、熊本にできた工場が稼働しはじめ大ニュースになった。
九州では
「なんもない田舎に、TSMCの工場ができて、
ガールズバーができた!」
という話まで広まるほど盛り上がっていた。

アメリカの思惑として私が想像するのは、
「台湾だけに一点集中しているのは危険だから、日本にも拠点を……」
「日本の技術力で製造できるなら、円安でもかまわないかも……」
こういったところだろうか。

以上、もっと詳しい方がいらっしゃったら教えてください。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

次回の開催予定

令和7年 12/13 SAT
14:00〜17:30

テーマ: 「歌謡曲を通して日本を語る LIVE in 横浜」

INFORMATIONお知らせ